呪  焔
 (12)










「アスラン!」
 駆けてくるディアッカの姿を見て、アスランはのろのろとベンチから腰を上げた。
 その様子を見ただけで、どうだったのか、結果は聞くまでもなかった。
「駄目だ。見つかんねー」
 ディアッカはお手上げといった風に、両手を挙げた。
「イザークの奴、一体どこ行っちまったんだか――!」
「――こっちも駄目でした!」
 はあはあと息を弾ませてニコルも戻ってきた。
「……連絡は……?まだ繋がらないんですか?」
 そう言いながら、彼はアスランが手の中で弄んでいる携帯機にちらりと視線を投げた。
 アスランは頭を振った。
「電源が切られているようだ」
「そんな……」
 ニコルは暗い表情でうなだれた。
「どうしたんでしょう、イザーク……」
「……ったく、勝手に動くなってのに。あの馬鹿は一体何考えてんだよ!面倒ばっかかけやがって……」
 忌々しげに吐き捨てたディアッカはふと、思いついたようにアスランを見た。
「なあ、まさか今朝の件と関係あり、とか?」
「……わからない。ただ、奴とも連絡が取れないんだ」
 イザークに連絡が取れないとわかったとき、既に例の工作員の男にも連絡を取ろうとしたが、そちらも繋がらなかった。
 それだけで関連性があるとは言い難いが、やはり気にはなった。
 アスランは渋い顔で、手の中の携帯連絡機を見つめた。
「……なあ、けど、俺たちずっと一緒にいたんだから、少なくともかっ攫われたとかそんなんじゃない筈だろ?つまりあいつが自分の意志で、勝手にどこかへ行っちまったってことだ」
「でもだからといって、戻ってくるまで待っているわけにもいかないでしょう。気付いてからでも、もう一時間以上は経ってますよ。第一、ぼくたち、一刻も早く艦に戻らなきゃならないんだし……」
 ニコルが心配気に言うと、ディアッカはうーんと唸って考え込む素振りを見せた。
 そのうちふと、その眉が上がった。
「……なあ、そういやあのとき……」
「え……?」
 唐突に切り出した彼の言葉にきょとんと首を傾げるニコルから、不意にディアッカはアスランへと視線を移した。
「足つき探して工場ん中に入ろうとしてたあのときさ――」
「……………」
「……あいつ、戻ってって誰かと話してたろ?あれ、何だったんだろうな」
 黙ったまま答えないアスランに、ディアッカの鋭い視線が突き刺さる。
「確かその前に、おまえも誰か知らねー奴と話してたよな」
「――俺は何も話などしていない」
 アスランは答えた。俯き加減の顔からは何の表情も窺えない。
「……ああ、そうだ。鳥、でしたよね。アスラン」
 ニコルが緊迫感を和らげるように、さりげなく二人の間に割って入った。
「あのとき、鳥が飛んできて……あの人が、それを探して出てきたんだ……」
「……ふーん、そうかよ。――けど、イザークは違ったよな?」
 ニコルが思い出させるように説明しても、ディアッカの目からは依然として疑いの色が消えなかった。
「知らない奴って感じじゃなかったぜ、どう見ても。おまえもそう思っただろ、ニコル?」
「あ、それは……」
 ニコルは困ったように口ごもった。
 確かにイザークの行動は、変だった。
「黙ってねーで、何か心当たりがあるんだったら、話せよ。アスラン!」
 たまりかねたように、ディアッカは声を上げてアスランに迫った。
「イザークがもし何かトラブルに巻き込まれたんだとしたら――」
「――あそこにいたのは――!……」
 突然切り出されたアスランの声が、ディアッカの言葉を遮った。
 アスランは顔を上げて、二人を見た。
 睨みつけるような険しい視線を注ぎながら、静かに言葉を続ける。
「――あそこにいたのは、今朝俺がイザークを迎えに行ったときに傍にいた男、だった」
「え……?」
 ディアッカとニコルは顔を見合わせた。
「って、俺が最初に連絡取ったときに、出た奴?」
「そうだ」
 おいおい、とディアッカは素っ頓狂な声を上げた。
「……何だよ、そいつが何であんなとこにいるわけ?まさかそれって……」
 アスランは冷静に言葉を継いだ。
「そのまさか、だろう。事情はわからないが、奴が何らかの形でオーブの軍事機密に関わる人間であることは間違いない。でなければ、あんなところに入れないだろう」
「……イザークはまさか、一人で中に入るきっかけを作ろうとして……?」
 ニコルの顔に戸惑いの色が浮かぶ。
「そう、なのかもしれない」
「何で俺たちに言わねーんだよ!」
 ディアッカが怒りの声を上げた。
「あの馬鹿!何で一人で勝手に行動しちまうんだよ!何考えてんだ、くそっ!アスラン、おまえもおまえだ!知ってたんならすぐに言うべきだろうがっ!こんなことにならなきゃ、ずっと黙ってるつもりだったのか?」
 荒ぶるディアッカの声がアスランを責め立てる。
 アスランは、黙っていた。
 厳しさの中にもほんの僅かな苦渋の色を滲ませた、そんな彼の顔をニコルが気遣わしげに見守る。
「アスラン……」
 何か、引っかかる。
 ニコルは記憶を遡らせた。
 ロボット鳥が飛んで来て、そしてそれを呼ぶ声が聞こえて……。
 そうだ。あの時の、彼の顔。
 めったに顔色を変えない彼が……。
 あの一瞬のひどい動揺の表情。
 彼は、やはりあの少年を知っているのでは、ないか。
 ひそかな疑念を抱きながらも、ニコルは敢えてそれを口に出さなかった。
「アス――」
 そのとき。
 アスランの手のひらの上で、携帯が震えた。
 光が点滅する。
「あ……」 ニコルは目を瞠った。
(イザーク……?)
 ディアッカも緊張した様子でそれに視線を据えた。
 アスランの落ち着いた指先が、通信ボタンを押すのが見えた。
「――イザークか?」
 一呼吸置いて、彼はそう呼びかけた。
 冷静な、声だった。
 間があいた。
 アスランは、僅かに眉根を寄せた。
「……イザーク……?」
 返事が、ない。
「――誰、だ?」
 アスランの口調が厳しくなる。
 ニコルとディアッカは思わず顔を見合わせた。
『……………』
 躊躇いがちの、沈黙。
 確かに相手は通話機の向こうに存在していた。
 アスランは、待った。
『……アス、ラン……』
 やがてぽつりと聞こえてきた声が、ずきんと耳膜を打った。
 押し殺したような、微かな囁きではあったが、聞き逃すことはなかった。
 その声を、彼はよく知っていた。
 ……キ、ラ――
 しかし、アスランは決してその名を口に出さなかった。
(――おまえ、なのか……?)
 胸が疼くような痛みと切なさが交互に押し寄せる。
「――この携帯の持ち主は、どこだ」
 冷やかな声が、問いかけると、相手はしばし沈黙した。
『………………』
「――答えろ」
「誰なんだよ、アスラン!」
 横からディアッカがたまらず声をかけてきたが、アスランはただ黙っているようにと手を振った。
「――彼を、どうした?」
 自分自身のひそかな心の動揺をおくびにも出さぬように、彼の声はあくまで冷静を保ったままだった。
『……ぼくの、部屋にいる』
「何……?」
 アスランは愕然と目を瞠った。
 ――イザークが、キラと共にいる……?
 一体なぜ……?どうして、そんなことが……?
 状況が、飲み込めない。
「……どういう、ことなんだ……?」
『……助けたんだよ、彼を……。気を失っていた』
 アスランの顔色が変わった。
 それを見たディアッカとニコルの顔も険しくなった。
「……無事、なのか……?」
『………………』
「……答えろ!」
 覚えず声が荒立つ。
『……大、丈夫だよ。意識は戻ってるから。――でも、一人では帰れそうにない』
「……………」
『……そういう、わけだから……』
 曖昧な声の調子に、アスランは僅かに眉を上げた。
 しかしそれ以上気にかけている余裕はなかった。
 とにかく今は、イザークを取り戻すことを考えなければならない。
「……どう、すればいい」
 ぎこちなく、相手を促す。
 少し間があいた。
『……迎えに、来てくれる?』
「……ああ」
 アスランが答えると、相手が小さく息を吐くのがわかった。
 ほんの少しの躊躇いの後。
『……できるなら、きみ一人で来て欲しい』
 囁くように吐き出された言葉が、アスランの耳膜を甘く撫でた。
 不安げに揺れる菫色の瞳が目の前に見えるようだった。
『……会いたいんだ……アスラン……』
 少し高めの、子供っぽさを残した甘い声音。
 懐かしい、響きだった。
(あ、あ……――)
 目を閉じる。
 ――情に捉われてはいけない。
 そう戒めながらも、感情が言うことを聞かない。
 自分の立場と置かれている状況を思い出せ。
 ようやく、彼は思いを断ち切るように、大きく目を開けて現実を見つめた。
 ――もう、俺たちは戻れない場所に来ている。
「……わかった」
 アスランは、短く答えた。
『それと――きみたちのことは、誰にも言ってないから』
 キラはそう付け足した。
『……さっき会った場所で、待ってる』
「ああ」
 通信はそこで途切れた。
 無味乾燥な回線音を聞いたまま、アスランはしばし呆然と立ち尽くしていた。
「……何だったんだよ?」
 ディアッカにせっつかれて、ようやく彼は我に返った。
「あ、あ……」
 そこでようやく彼は仲間に状況を説明し始めた。
 
 
 

 やるせない思いが残る。
 連絡機の通信を切った後も、キラはしばらくの間、じっと建物の壁に背をもたせたまま、暗ずんだ空をぼんやりと見上げていた。

 ――会いたい。
『……会いたいんだ……アスラン……』
 あんなこと、言うつもりはなかったのに。
 気付いたときには口からひとりでに言葉が飛び出してしまっていた。
 アスランは、どう思っただろうか。
 罠だと思っただろうか。
(そう、思うだろうな……)
 キラは苦い笑みを浮かべた。
 普通は……。
 ――だって、今ぼくたちは敵と味方に分かれて戦っているんだから。
 あんな、露骨に誘い出すような台詞。
(できるなら、きみ一人で……)
 何であんな風に思わせぶりなことを言ってしまったのか。
 キラは掌の携帯機を固く握り締めた。
 もう、自分たちはあの頃のままじゃないのに。
 いつまでも自分の中ではアスランは昔のままのアスランで。
 でも本当は違う。
 今は、彼はザフトの軍人なのだ。
(そうだ。それに、ぼくだって……)
 ――軍人、ですから。
 氷のように冷やかに口をついて出た台詞。
 まるで自分のものではないかのように。
 ぞっとする。
 自分じゃない。
 自分は今、自分であって自分じゃない。
(……どうなってしまうんだろう。ぼくは……)
 ――軍人、やめてもいいんだぞ。
 フラガの声に耳を塞ぐ。
 そんなこと、できるわけないじゃないか。
 今さら引き返すなんてこと、できるわけない。
 自分はもう、何人もの命をこの手で奪ってしまった。
 人殺し、なんだ。
 そう……。そして、大切なものを守ることもできなくて……。
 手を振る小さな少女の姿がちらつく。
 キラは唇を噛んだ。
(……なのに、ぼくはまだアスランを敵と認めることができないでいるんだ)
 自分は一体何をしているのだろう、と思う。
 こんな風に、フラガに嘘を吐いてまで、こっそりアスランと会う約束まで取り付けてしまった。
 自分の甘さを自覚しながら、それを断ち切れないでいる自分自身の心の弱さを彼は自虐的なまでに責めた。
 
 
 
 部屋に入ると、水音がした。

 ベッドの上に寝ていた筈の姿が、見えない。
 キラは慌ててバスユニットに続く扉の前へ駆け寄った。
 つい先ほどまで、身体を起こすのさえ覚束ない様子だったのに、と思うと心配になった。
「……あ、あの……大、丈夫?」
 ロックはされていない。そっと扉を開けながら、声をかけた。
 返事はない。
 ただシャワーの音だけが響く。
 不安になって中に入り込んだ。
 シャワーカーテン越しに、蹲る影が映る。
 それを見た瞬間、洗面所に脱ぎ散らされたシャツやズボンを踏み越えていくと、カーテンに手をかけ、一気に開いた。
 上から霧のように降りかかってくるシャワーの飛沫を頭に浴びても、彼は一向に気にならなかった。
 ただキラの目はそこに蹲っている銀色の頭の少年にだけ集中していた。
「イザーク?」
 狭いタブの中を、シャワーの真下を潜るように入り込み、コックを閉める。水が、止まった。
 何気なく下に目をやってキラはぎょっとした。
 流れる水に混じる赤い色。
(……ど、どうしたんだ?)
 怪我をしているのかと驚いて、濡れるのも構わず、蹲っている少年の前に跪き、その身体に手をかけた。
 両肩に手をかけた瞬間、びくん、と体が震えた。
 ゆっくりと顔を上げる。
 水に濡れた髪が額にぺったりとくっついている。その額から頬まで、美しい顔を縦断する傷跡から再びじわじわと噴き出している血の滴が生々しく映った。
「だ、大丈夫……?」
 キラは迷いながらも、躊躇う指先をそっと相手の傷に当てた。
 じわり、と赤い色が指先に滲む。
「血、が……」
 ぼんやりとした青い瞳がゆっくりと目の前の少年に焦点を結び始めた。やがてキラを認めると、僅かに目を見開いた。
「あ……」
 初めてその存在に気付いたように、彼は小さく驚きの声を上げた。
「……どう、したの……?」
 キラは優しく問いかけた。
 イザークは目を瞬いた。
 自分の手で傷を押さえると、軽い呻き声を上げた。
「……触らないで」
 キラはイザークの手を取った。
「駄目だよ。血が止まらなくなる……」
 そのまま手を軽く引いた。
「……傷の手当て、しなくちゃ……立てる?」
 引っ張り上げようとすると、逆に腕を引かれた。
 再び膝をついたキラの胸に裸の胸が触れる。
 すぐ目の先に、青い瞳が映った。
 綺麗な青の色だった。
 何だかどきりとする。
「シャワー、浴びたかったの?」
 どうでもよいような問いを発した自分を少し間抜けたように感じた。
「そう、じゃない……」
 相手は軽く首を振った。
「ただ……ここに、入って……」
 用を足すだけのために、ふらふらとベッドから下りて、バスルームへと入った。
 そうして洗面台の前に立って、顔を上げたとき……。
「……鏡を、見たら……」
 青い瞳が僅かな恐怖を示す。
「……この、傷が……」
 がくがくと体が震える。
 額から斜めに走るグロテスクな傷跡。
「見ていたら、気分が、悪くなった……」
「……………」
「……血が、噴き出して……」
「……え?……」
「……血で、体が真っ赤になって……怖く、なった……」
「……そう、だったんだ……」
 キラはやむなく相手の言葉に相槌を打った。
 しかし内心はひどく戸惑っていた。
 何か幻でも見たのだろうか。
 どういうことなんだろう。
 しかし、傷から出血していることは確かで……。
 恐らくは、幻覚に捉われパニックに陥っているうちに、自分自身の手で傷つけて傷口を開いてしまったのだろう。

「……どう、しよう……」
「……………」
「……何も、わからない。何で、こんな傷がついてるのか、ってことさえ……」
 イザークの声はだんだん弱々しくなっていく。
「……頭の中が、真っ白で……」
 縋るように直に見つめてくる青い瞳に捉えられて、ますますキラは困惑を強めた。
「……どう、したら……いい……?」
「……う、ん……」
 キラは曖昧に頷いた。
 どうしていいのかわからないのは、自分も同じだ。
 彼は途方に暮れたまま、しがみつく銀色の髪の少年を見下ろした。
「……大切な、ことだったんだ……」
 イザークは青ざめた唇を僅かに震わせた。
 ――とても、大切なこと……。
 それが、思い出せないまま……。
「……っ……!」
 突然、彼は顔を顰めた。う、と一声呻くと、空いている手で顔を覆う。
「……痛、い……」
「――大、丈夫だよ……」
 頼りない声に、キラは宥めるようにその髪を撫でた。思った以上に柔らかくて、滑らかな手触りに驚いた。指の間に絡まる銀の糸のような細い毛の先を思わず弄ぶ。
 それだけで、何だかどきどきした。
「大丈夫、だから……何も考えないで……」
 手を背中に回すと、濡れた肌の下からほんのりとした温もりと共に脈打つ鼓動が伝わってくるようだった。
「ほら、立てる……?」
 そう言いながら、抱く腕に力を込める。
 あ、と相手が変な声を上げるのが聞こえた。
 気付くと相手の股間のものが自分の腹に当たっていた。
「あ……――」
 それだけのことで、ひどく興奮している自分に気付いて我ながら驚いた。
 慌てて体を離そうとしたのに、それどころか湧き上がる衝動に抗しきれなくなった。
(何、だろう……)
 それが何なのかわからないまま、ただひどく胸がざわついた。
「いた、い……」
 子供のように弱々しい声が、相手の唇から漏れる。
(あ、れ……)
 キラは首を傾げた。
 この人は、こんな人だったのだろうか。
 ――キラ・ヤマト。
 冷やかに、氷のような視線で刺し貫いてくるあの怜悧で傲慢な表情(かお)。
 その底からふつふつと滾るような、見えない憎悪と怨嗟の念を、強く感じた。

 なぜ、この人がそんなに恐ろしい顔で挑むように自分を睨みつけてくるのか、その原因がわからず、わけもなく不安に駆られた。
 美しい。
 けれど、近づくのは恐ろしい。
 そんな印象だけが、残った。
 ――それが、今……。
 違う。
 今のこの人は、最初見たときとは全然違う。
 それは単に記憶を失っているから、なのだろうか。
 いや、それだけなのか。
 本当は、この人は……。
 どうしてこんなに自分が彼のことを気にするのか、不思議だった。
 しかし、なぜか放っておけない。
 何かが……。
 単に綺麗な人だから、だとか、そういう理由だけではない。
 それ以上の何か。
 因縁、とでもいったものだろうか。
 それは、予感だった。
 何の根拠もないのに。
 彼は、笑おうとした。
 しかし、そこにはただ笑いきれない何かがあった。
 この人は、そんなに強くない。
 こんなにも、脆くて弱くて……今にも壊れそうな瞳(め)で。
 目を合わせる。
 引かれる、何かがある。
 それを、この瞬間、確信した。
 もしかしたら……。
(ぼくたちは……)
 それを感じ出すと、途端に全身が震えた。
 自分の予感に、怯えた。
 決してそれは明るい前途を予感させるだけのものではないだろう。
 これから先に待っているものを思うと怖かった。
 それでも、逆らえない運命の力に導かれるように……。
 ひとりでに、動いていく。
 止められない。
 見えない不思議な磁力が働いているとしか思えなかった。
 そんな、つもりはない。
 自分は、決してそんなこと……。
 でも……。
 気が付くと、半開きになった相手の濡れた唇に己の唇をそっと押し当てていた。

                                      (to be continued...)


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