呪 焔
(18)
「おい、イザー……」
そう言いかけたフラガは、相手と視線を合わせた瞬間、驚きに打たれて言葉を止めた。
目を丸くして、相手を凝視する。
あまりにも激しすぎる感情の発露。
剥き出しの敵意をストレートにぶつけられて、困惑する。
しばらくびっくりしたように相手を見つめていたが、みるみるうちに、その表情が険しくなった。
「……おまえ……」
呟きながら、彼は訝し気に首を傾げた。
先程までの顔とは、違う。
気のせいか、と思ったが、どうもそうではなさそうだった。
この顔……。覚えがある。
最初に出会った、あのときの……。
「おまえ……まさか……」
そのとき、背後からばたばたと複数の足音が響いた。
「おい、そこにいるのは誰だ!何があった?」
叫びながら警備の制服を着用した男が二人、物々しく駆けつけてくるのを見て、フラガはちっと舌打ちをした。
騒ぎを大きくしたくない。
しかし、もはやイザークを隠すには間に合わなかった。
男たちはそこに立っているのが、どうやら昼間見た連合艦に乗っていたクルーの一人だと認めたようだった。
「……ああ、確か連合艦の――」
一人がほっと息を吐くのがわかった。
「――一体、何事ですか」
相手が誰かわかったとはいえ、男たちの顔からはやはりまだ不審と疑念の表情が消えない。それもそうだろう。こんな夜中に、しかも立ち入り禁止区域の前で、一体何をしていたのかと不審に思われても仕方がない。
こうなったら、何か適当にごまかしてしまうほかはないのだが……。
「……あー、えっと……いや、これは……」
フラガにしては珍しく、口ごもる。どうしても背後にいる存在を意識せずにはいられない。
男はそこで初めて、おや、といった風に眉を上げた。視線がフラガの背後にいるもう一人の姿に釘付けになる。
「そこにいるのは――」
ほら見つかった、とフラガは観念したように目を伏せた。
面倒は、避けたいというのに。
フラガがやれやれと嘆息したとき、急に男たちが小さく息を呑む音が聞こえ、彼はそれにつられて思わず目を上げた。驚いたように大きく見開かれた視線の先が、明らかに自分を通り越してその背後にあるものに注がれているのがわかると、忽ち嫌な予感に駆られた。彼らの視線を追って、ゆっくりと振り返る。
そこには、面を上げ、燃えるような眼差しを向ける少年の姿があった。通常ならば、並外れた美しさを誇る筈のその美しい面の半分が、白い包帯で覆われている。うっすらと朱を滲ませる包帯の痛々しさ。それでもなお、挑むように睨めつけてくる一粒の、氷のように冷えた青い瞳。初めて見る者にとっては、異常な様子に映っただろう。
フラガは男たちに見えぬように、目の端で少年を軽く睨み返した。しかし相手にはそんな彼の苛立ちも全く通じていないようだった。
(くそっ、顔上げるなっての!)
ただでさえ目立つ顔なのに、その面(ツラ)じゃあ、怪しまれないでいる方が不思議だろうが――と、フラガは心の中で唸った。ますます取り繕うのが困難な状況になってきた、と頭が痛くなる。
「……昼間は、見かけなかった顔だな――」
前にいた男の口からそんな言葉がぼそりと漏れると、後ろの男も訝しげに目を細めた。
確かにこれほど目立つ風体の者がいれば、嫌でも記憶に残っていただろう。
「あー、こいつは……」
フラガはいよいよ困ったように頭を掻いた。
(くそっ、このまま流せない雰囲気になってきたぜ……)
警備員とはいえ、このような施設に配備されている以上、それなりの知識や訓練を受けた者である筈だった。軍人上がりか、下手をすればそれ以上の特殊技能訓練を経験している者か……いずれにせよ、今この状況でそんな輩を適当にあしらえるわけがない。
「――少佐」
突然、声が割って入った。
一瞬、誰の声かわからず、フラガは瞬いた。
それが自分のよく知る少年の声だと気付くのに、数秒を要した。
(……キラ……?)
フラガは驚いて、男たちの後方に目を凝らした。
いつの間にか、近づいてくる人影。
栗色の髪の少年……キラのようでいて、どこかそうでないような気もした。
フラガは目を擦った。
(あいつ……あんな顔をしていたか?)
恐ろしいほど凍りついた表情が、こちらを見つめている。目が合うと、ぞくっと悪寒が走るほどに。
少佐、と呼びかけながらも、しかし、その視線が本当に見つめているのは、自分ではないのだと、すぐにわかった。
(……な……ん、だ……?)
怒り?憎悪……?
一見冷やかなその面から、伝わってくるその凄まじいまでの感情の迸りに、困惑した。自分に向けられたものではないのに、それでもどきりとせずにはいられない。
「……キラ……」
「――キラ・ヤマト……」
フラガの声を抑えるように、背後から低い声が、そう応じた。
氷のような響き。
憎悪のぶつかり合い。
緊迫した空気に挟まれて、フラガは凍りついたように立ち竦んだ。
(何だ、これは……)
僅かの間に、何かが変化した。
イザークの表情の変化に気付いたときから、それは薄々わかっていた。しかし、キラは……?
キラのこんな顔を、見たのは初めてだ。
フラガが弟のように可愛がっていた、少し幼さを残す優しい面立ちの少年。確かに最近は精神的にかなり不安定になり、時に自己破壊的にもなる、その危うさを心配してきたものだが……。
フラガは眉を顰めた。
一体、何が……?
そんな風に思いながら、相手の手元できらりと光るものに焦点が合うと、フラガはぎょっとした。
「キラ……おまえ……!」
フラガは顔を強張らせた。声が低くなる。
「何してる……」
「何って……」
キラは口元を僅かに緩めた。フラガの背後へと向けられている銃口は、動かない。
「決まってるでしょう。敵対するものに、銃口を向けるのは当然だ――あなたこそ、何をぼおっとしているんです。そこにいるのは、ザフトの軍人なのに」
「――な、何だって!」
キラの言葉に、警備の男たちが顔色を変えた。
緊迫した動きに、金属が擦れる音が混じる。
男たちの手の先には、キラと同じものが鈍い閃きを放っていた。
「あ、ちょっ、ちょっと待った――」
不穏な気配に慌てたフラガを押しのけるようにして、男たちの銃口が背後に蹲っている少年を目がけて突きつけられる。
「――IDを提示しろ」
そう要請する声は、結果を期待しない、冷やかな命令の語調だった。
二人の男は、銃を突きつけたまま、それぞれ慎重に少年の両脇に移動した。
イザークは、動かなかった。
ただ、その目は相変わらず、開けた視界の向こう側に佇む栗色の髪の少年の姿をじっと睨みつけたままだった。
「IDを提示できない理由があるんだな」
両横から突き出された銃口が、何も答えない少年の肩口を軽く小突く。
「立て。連行する」
厳しい声と銃口にせっつかれて、彼は何の言葉も発することなく、覚束ない足取りで立ち上がった。さっきの衝撃から、まだ体が立ち直っていないのだろう。立ち上がると、僅かに苦しげな息を吐くが、その両脇から容赦なく銃口が突きつけられるため、体を弛緩することもできなかった。
「……一応、あなた方からも事情を聴かせてもらいたいのですが。宜しいですか?」
フラガに近い方に位置していた男が、ちらと彼を目で促した。誤魔化しのききそうにない、険しい眼差しだった。
「……仕方ねーよな」
観念したように、フラガは肩を竦めたが、その視線は何かを問い質そうとするかのように、鋭くキラを射抜いていた。
「……ぼくも、いいですよ」
キラは淡々と答えると、フラガの視線から逃れるように背を向けた。
警備室まで連行されて行くと、イザークは取り敢えず、その横にある宿直の小部屋に入れられた。
残ったもう一人の警備員が、机を挟んでフラガとキラを前にかけさせて、軽い尋問を行った。
話し始めて間もなく、キラがいきなり机の上にイザークが持っていた小型の携帯連絡機を転がしてみせると、フラガは少し驚いた顔をした。
「おい、これ――」
「彼が持っていたものです」
キラはフラガの問いかけるような視線を無視して、淡々と警備員に向かって説明した。
「これで、彼の仲間に連絡を取ろうとしたんですけど……」
キラは目を伏せた。
「――それで、その仲間とやらとは話せたんですか?」
「……いえ」
フラガは、首を横に振るキラを疑わしそうに見た。
(嘘だ)
キラの伏し目がちな顔を横から見ながら、彼は確信した。
(こいつは、嘘を吐いている……)
何の根拠があるわけではない。
それは、動物的な勘、とでもいおうか。
(おそらく、既に何らかの接触を取っている……)
先程までの経緯を思い出し、ふと納得がいった。
そうか。
さっき、部屋を出て行ったのは……。
そう思うと、何もかも合点がいく。
友だち……と、言っていたな。
確か……
(アスラン……?)
紫紺の髪の、少年。……奴と、話したのか?
さまざまな疑惑を抱きながらも、フラガは取り敢えず目の前の男を説得することに意識を向けた。
「……とにかく、あいつを引き入れたのは俺たちだ。俺たち……っていうか、俺だ。俺!……実は俺、昼間ちょっと抜け出して、内緒で町をうろついててさ、そこであいつを見かけたってわけで……」
フラガはそう言うと、観念したように両手を宙にかざした。
「あいつが何者かとか、そんなことは全くわからない。外で変な奴らに襲われてたのを助けただけなんだからな。中に入れたのは悪かったが、緊急だったからどうしようもなかったんだよ。夜中に余計な騒ぎを起こすのもどうかと思って……俺が早計だった。俺に責任がある。それは認めるから、さ……だから、頼むよ。あいつは何も関係ないんだ。むしろ被害者、っつうかさ。……俺が責任もって外へ帰すから……それでOKってことにしといてくれないかなあ」
「――しかし、そちらは彼をザフトの軍人だ、と言ってらしたようですが」
男の声は、騙されるものかと言わんばかりに堅く尖っていた。
疑わしげな視線が交差する。
「彼は――」
「キラ!」
何か言いかけたキラの腕を、フラガが強く引いた。
「少佐……」
「わかってないだろ、おまえは!」
フラガはそう言うと、少年の頭を軽く小突いた。
「子供は黙ってろ!……なんて言わないが、まだ何もわかってないのに敵だとかザフトだとか、軽々しく言うんじゃないっての。混乱の元だろうが!」
「……ぼくは、ただ――」
半分冗談めかした口調ではあったが、キラを見るフラガの目は真剣で、その奥には明らかな苛立ちと怒りの光が瞬いていた。キラは言おうか言うまいか迷うようにしばらく口を開いたり閉じたりしていたが、やがて諦めたように唇を引き結ぶと黙って俯いた。それを見て、フラガはひそかに息を吐いた。
「……とにかく、事情はそういうことだから……。引き取っていいかな」
そう言うと、話はついたと言わんばかりに腰を上げた。
「いや、ちょっと待って下さいよ。そう簡単に結論づけられても困ります」
男は苦笑いを浮かべて相手を見た。
「フラガ少佐……でしたっけ。ムウ・ラ・フラガ少佐――ですよね」
男に促されて、やむなくフラガは再び椅子に腰を下ろした。
相手を斜に見ると、フラガは薄く笑った。
「俺のフルネームが言える、ってことはご同業、かな?」
「――当たらずも遠からず、ですね。私も元軍人の端くれってわけで。現役の頃は無論、高名な『エンデュミオンの鷹』の噂はよく聞き及んでいましたし、尊敬もしていましたよ。月面クレーターでのあの戦績は軍人にとってはまさしく英雄伝ですからね。コーディネイターだってそうそう真似できるもんじゃないでしょう。ナチュラルであれだけの戦果を挙げるってのは奇跡に近いですよ。いや、本当に敬服します」
「おいおい、俺の武勇伝を誉め讃えてる場合じゃねーだろ」
男の熱のこもった語り口に、フラガは苦笑した。
男もいったん照れ笑いを浮かべたが、すぐに話を本題に戻した。
「――で、その優秀な連合の軍人であるあなたが、ここでいい加減なことや嘘を言われているとは私も思わないのですが……しかし、ご存知のように、ここは一応オーブの軍事機密に関わる重大な施設ですので、いくら少佐がそう言われたからといって、そう簡単に不審人物を解き放つわけにもいきません。こちらで一通り取り調べが済むまで彼の身柄は拘束します」
言葉尻は丁寧ではあったが、そこには絶対に曲げることのない強固な意志が感じられた。
フラガは肩を竦めた。こういう男は軍人によくいるタイプだ。今さら驚くこともない。
「うん、まあ……俺のことを知っていてもらったのは、光栄なことだけどね。――けどまあ、そっちもお仕事だから仕方ないってことだな。いいよ。OK。けど、取調べは簡単に頼むよ。何しろ、あいつ、だいぶへばっちまってるみたいだから。何回か衝撃波喰らって気ィ失ってるうちに、記憶も飛んじまったりして、さ……早いとこ、休ませてやりたいんだ」
「ご心配なく。聴くだけのことを聴けば、すぐに解放します。夜明けまでかかりませんよ」
「それは助かる。じゃあ、それまでここで待たせてもらうから」
フラガはそう言うとどかっと深く椅子に腰をかけ直した。それを見ると、相手は眉を顰めた。
「申し訳ありませんが、宜しければ、全て済むまで自室でお待ち頂けませんか。ここにいられると私たちの別の仕事に差し支えますので……」
神経質そうに、コンソールを見る。ここでは敷地内の詳細な見取り図から、各部屋に配備されている警備装置の配置などが丸見えになる。なるほど部外者にいつまでも警備室に居座られるのも迷惑な話ではあったろう。
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ、俺の部屋、B―27だから。済んだらすぐ連絡くれ」
フラガはそう言うと、面倒臭げに立ち上がった。
「おまえもだろ」
キラの肩を掴んで促す。
そこでキラはようやくはっと我に返ったようだった。
一瞬見上げたその顔が、必要以上に強張っているのを見て、フラガは嘆息した。
「おまえには、まだ話したいことがある。一緒に俺ん部屋に来いよ」
「ぼくには、何も話すことはありませんから」
素っ気なく返すキラの肩を、フラガは強く揺すった。
「いいから、来い!」
吐き出された言葉にこもった思わぬ強い怒気に、キラはむろん、向かい側の男まで弾かれたように目を瞠った。
「わかり、ました……」
キラは挑むようにフラガを見返すと立ち上がり、渋々相手の後について警備室を出た。
……頭が痛い。割れるように、痛い。
心臓が破れてしまうかと思うほど、激しく打ちつけられる。気持ちが、悪い。次から次へと唾液が口の中に溜まり、溢れ返りそうになる。必死で飲み込んでいるうちに、今度は飲み込んだものが全て胃の腑ごと、せり上がってきそうな感覚に襲われた。
どくん、どくん、どくん、どくん……
血液が血管を破って飛び出してくるのではないかとさえ思う。
それほど、血の循環が速い。血管を叩きつけるように、流れていく。
――おまえの、名前は?
遠いところから、降ってくる問い。
答えなければ、という思いに駆られる反面、駄目だ、と強くそれを押しとどめる声がする。
――ナニモ、答エルナ。
それに、従わねばならない。
それだけは、わかった。
だから、口を噤む。
零れそうになる言葉を飲み込む。
すると、再び心臓のポンプの動きが激しくなった。
(う……)
口から何か他のものが飛び出しそうだった。
苦しさに、呻く。
動物のような、荒い呻き声に、我ながら驚いた。
自分の口から出ているものとは到底思えない。それほど不気味な音だった。
――おまえの所属は?
(………………)
――おまえは、どこから来た?
ナニモ、言ウナ。
喋ッテハ、イケナイ。
ロックが、かかる。
自分の意志ではなく、半ば自動的に……。
刷り込まれた、意志。
心が、暗くなる。
思考が、停止する。
まるで、機械のスイッチがオフになってしまったかのように。
何も、聞こえなかった。
ただぶんぶん言う耳障りな音が鼓膜を過ぎるだけだった。
「――どうだ」
男が部屋に入ってきたとき、彼は何度目かに加えられたその強い自白剤のショックで再び気を失ったところだった。
強い薬を注入される苦痛に体が撥ねるたびに、椅子の両側に繋がれた手錠が両手首に食い込み、離れていこうとする少年の体をさらに強く拘束する。酸素不足の魚のように体をじたばたさせて悶える少年の姿を、傍に立っていた男が無感動な瞳でじっと見下ろしていた。
意識が遠ざかっても、しばらくはまだ小刻みに体が震え続けている。荒い呼吸が次第に緩やかになり、そのうちとうとうかくりと頭が垂れた。
「だいぶ打ってみたんだが、もうこれ以上は無理だな。殺しちまったら、厄介だ」
横で様子を見ていた男が、匙を投げるように頭を振った。
片手に持っている注射針の先からはまだつい先ほど少年の皮膚に注入されたばかりの自白剤の液の残りが僅かに滴っている。
「――こりゃあ、本当に何も知らないか、それともだいぶ訓練されて耐性ができているか、のどちらかだろうな」
男は注射針を丸テーブルに投げ捨てると、肩で息を吐いた。
「後者の方が近いな」
入ってきた男は、顎をしゃくりながら、少年の傍に近づくと跪き、意識のない頭を両手で軽く持ち上げた。血の気の失せた顔を一瞥した後、指先でそっと白い包帯を撫でる。
「ずいぶん綺麗な顔だが、これが邪魔だな」
呟くと、そのまま容赦なく白い布を毟り取った。
そうしてその下から出てきた赤黒い傷跡を見て、男は改めて目を瞠る。
「……うわ……酷えな……」
「一体どうすりゃあ、こんなに酷い傷がつくんだ?よっぽど酷い事故か何かに巻き込まれたか……」
後ろから覗き込んだもう一人の男も、僅かに顔を顰めながら呟く。
「……軍人なら、戦闘で受けた名誉の負傷とでもいえば十分通用するな。全く、怪しいとこだらけだ。どうする、これを?」
「――さあ、な……」
頭から手を離して立ち上がると、男は考え深げに顎を手でしゃくった。
「どうしたもんかな。時期が時期だけに、な。――軍部に報告してみるか、一応……」
「本当にあの少佐が拾ってきただけだとしたら、何でもないことで大騒ぎをしていることになるが」
「おいおい、本気にするなよ。あの男はなかなかの曲者だぞ。何と言っても連合の英雄さまだからな。――あいつが拾ってきた、っていうなら、ただの拾い猫ってだけじゃあないだろう。何かあるに決まってるさ。例えザフトじゃないにしても、少なくとも、こいつはただのガキじゃねーだろ」
男は鼻で笑った。
オーブという国は微妙な位置にある。
中立とは名ばかりで、実際は……。
このような特殊な仕事をしていると、いろいろと嫌な部分が見えてくる。
連合も、プラントも、オーブにとっては同じだ。
どちらが自国にとって有益か。ただそれだけのことだろう。
エンデュミオンの鷹、か。
彼は目をそばめて、ふ、と笑う。
確かに印象深い男だ。それに思ったより、エリート臭はなかったな、と思う。ただ、油断はならない。飄々とした口振りではあったが、その瞳の奥に研ぎ澄まされた刃が潜んでいることを彼はしっかりと見抜いていた。
(危険な男だ。侮れない……)
簡単に信用も、できない。
男は溜め息を吐いた。
「……どちらにしろ、俺たちは義務を果たすだけだ。後は軍の判断に任せばいい」
(to be continued...)
|