痛 み
突き上がってくるその激しい痛みに、イザークは一瞬吸い込んだ息を止め、目を大きく見開いた。
・・・つう・・・っ・・・!
声も出ないほど、凄まじい痛みが下半身を貫いている。
彼は痛みから逃れようと、身を捩りかけた。
「・・・動かないで!」
すかさずアスランが耳元で制止の声をかける。
イザークの体を抱く彼の腕に僅かに力が込められた。
「・・・動くと、余計痛くなるから・・・」
宥めるように、優しく囁く。
力を抜いて、ゆっくりと息をして・・・と、そっと指示するアスランの口調はとてもそのような行為の最中とは思えぬくらい穏やかで落ち着き払ったものだった。
冷静に言葉をかけながらも、彼はそのまま最奥部まで一気に自分のものを突き入れた。
「・・・うっ、ああああーーー・・・っ・・・!」
イザークはあまりの衝撃と痛みに耐え切れず、悲鳴を上げた。
アスランは、自分のものが血でぬめる感触に微かに眉をしかめた。
「・・・ほら見ろ、動くから・・・傷つけてしまった・・・」
それを見て、アスランは溜め息を吐いた。
あまりの痛がりように、やはり無理をするのはやめようかと何度も思ったが、結局ここまできてしまった。
こうなったら、最後までいくしかない。
アスランはイザークの体の上でそのまま下半身を容赦なく動かし始めた。
それが局部を擦るたびに、イザークの顔が苦悶に歪み、その喉から声にならぬ悲鳴がひゅうひゅうと漏れていく。
「・・・そんなに、痛いのか・・・?」
アスランは困ったように呟くと、一瞬動きを止めてイザークの瞳からこぼれる涙の滴をそっと舌で拭ってやった。
(・・・ほんとに、初めてだったんだ・・・)
アスランは改めて、新鮮な驚きに打たれながら、痛がるイザークのほんのりと朱に染まったその美しい色白の面を眺めた。
異様なほどの興奮の波が押し寄せ、ぞくりと全身に震えが走った。
この美しい生き物の体を・・・初めて征服したのは、自分なのだ。
この滑る肌の生々しい感触・・・
相手の体の中に自分自身を貫き・・・共に繋がったというはっきりとした実感。
恍惚とした、目も眩むような・・・この最上の愉悦感。
これが・・・これが、みな自分だけのものであるとは・・・。
そう思うと、どうしても興奮せずにはおれない。
心臓の鼓動が一気に高まるようだ。
ますます、いとおしさが募る。
(・・・俺だけの・・・イザーク・・・!)
アスランは下半身を動かしながら、相手の顔や首筋に激しいキスの雨を降らせた。
「・・・や・・・っ・・・!・・・」
イザークの口から漏れる空気にようやく、ほんの少し音声が混じった。
(・・・い・・・やだ・・・っ・・・)
「・・・や・・・め・・・ろ・・・!」
言いながら、あうっと思わず痛みに唇を噛む。
噛んだ唇の端が切れて、じわりと血が染み出していた。
もはや抑えようもなく、涙が溢れて止まらない。
冷静に今のこんな自分の姿を見たなら、イザークは恐らく、絶対にこのような醜態を演じた自分自身を許せなかったことだろう。
しかし、今の彼にはもはや意地もプライドもなかった。
そのような文字は頭の中からとっくにかき消えていた。
彼は・・・あまりにも非力で弱く・・・まさに罠にかかった、恐怖に怯える獲物でしかなかった。
「・・・や・・・め・・・ろ・・・っ・・・」
哀願にも似た、その悲痛な叫び。
――頼むから・・・
・・・もう、やめてくれ・・・。
アスランのものが自分の中に入っていると思うと・・・
あまりの気持ち悪さに嘔吐感すら、込み上がってくる。
痛い上に生理的な気持ち悪さが加わって、どうにかなってしまいそうだ。
しかも、それでいて・・・
解せないのは、一方でそんな相手からの働きかけにいちいち過剰に反応してしまうこの体・・・。
既に前戯で、自分のものはすっかりイカされてしまった・・・。
そして、現に今も・・・。
こんな・・・こんなおぞましいことが、自分の体に今行われているのかと思うと・・・考えただけで吐きそうになるというのに・・・。
それでも、どこかで・・・
どこかで、僅かにこの行為に応じている自分がいる・・・。
少しでも心地よさを感じているもう一人の自分がいるようで・・・。
それがイザークには身震いするほど、おぞましかった。
「・・・もう少し、我慢して――」
アスランが囁きかける。
あたかも、駄々っ子をあやすかのように・・・。
そのとき、アスランのものが、何か今までとは違う部分に触れた。
イザークの体は忽ちそれに鋭く反応した。
それまでの激しい痛みが・・・ふっと何か違うものに取って代わった。
それが何なのか、具体的によくわからぬまま――
「――はっ・・・あっ・・・!」
イザークの口から突然、それまでとは異なる類の奇妙な喘ぎが漏れた。
甘く、妙に艶っぽく、色めいた・・・
イザーク自身、自分の口から出た声に驚き、恥じ入った。
(・・・な、なんて声、出してるんだ、俺・・・?!)
男が出すものではない。
これは・・・
そう、まるでこれは・・・女が臥所で上げる嬌声そのものではないか・・・。
そう思った瞬間、恥辱にかっと頬が熱くなる。
アスランは表情を緩めた。
「・・・ここ・・・?」
彼は体をずらし、イザークの中に挿入した自分のものの角度を微妙に変え、相手の反応を見た。
案の定、イザークは見事にそれに反応した。
「・・・はっ・・・あっ・・・あん・・・んんっ・・・!」
頬がますます赤みを帯び、肉感的な表情の中、喘ぎだけが次第に激しさを増す。
本人の意図とは裏腹に、自然にその口から漏れ出る甘い嬌声がアスランを刺戟し、さらに激しい興奮の波をもたらす。
相手が女であっても、果たしてこれほどまでに興奮させてくれるものかどうか・・・。
イザークの乱れた姿態は、ますます燃え上がるアスランの欲情を煽るばかりだった。
「・・・や・・・だ・・・抜い・・・て・・・く・・・れ・・・」
喘ぐ合間に、それでもなお、そう懇願するイザークに、
「・・・なんで・・・?・・・せっかく気持ち良くなってるのに・・・?」
涙に濡れ光るイザークの瞳を見返すと、アスランは冷たく言い放った。
「・・・もっと、声を上げてみろよ。・・・ここには俺とおまえだけだ。誰も聞いてやしない。・・・何も気にすることはないんだ、イザーク・・・今さらおまえのプライドなんて俺の前では何の役にも立ちはしない・・・もう俺たちの間には、何も邪魔するものはないんだから・・・」
「・・・いや・・・だ・・・」
イザークはアスランを、涙の滲む目で睨んだ。
――アスラン・・・何で、そんな風に俺を苛める・・・?
イザークは、目の前の少年の落ち着き払ったその表情を、心から憎らしく思った。
――俺は、貴様の玩具じゃない・・・。
絶望と屈辱の思いが入り混じる。
(・・・俺はおまえが、好きだ・・・)
いつか、彼はそう言った。
だが・・・
これが、『好き』ということなのか。
本当に・・・?
アスランの気持ちがわからなかった。
・・・わかりたくもなかった。
――確かに・・・体は反応しているかもしれない・・・。
イザークは唇を噛んだ。
認めるのはいやだったが、止むを得ない。
――しかし・・・
何かが違う・・・。
こんなのは普通じゃない・・・。
これは・・・俺の本当の気持ちじゃない・・・!
俺は今、こいつに犯されているだけ・・・なんじゃないか・・・。
俺は・・・このまま、これを受け入れたくない・・・。
こんな風に・・・こいつに抱かれたくない・・・
(・・・抱かれる・・・?)
自分でその言葉を吐き出した瞬間、不思議な気がした。
そんなことを普通に思考している自分自身が・・・。
イザークはふと、ある悲しみが胸を襲うのを感じた。
アスラン・・・
俺はこいつが嫌いだった。
嫌で嫌で仕方なかった。
アカデミーで初めてこいつと出会ってから、今までずっと・・・そう思ってきた。
・・・そう、思ってきた・・・はずだが・・・。
俺はアスランのことを・・・本当に憎んでいたのか・・・?
イザークは混乱した。
そして、何でこんなときにこういうことをいろいろ考えなければならないのか、不思議にも思った。
バカだ、俺は・・・。
そんなこと、考えている場合じゃないだろう・・・。
今・・・こんなときに・・・。
「・・・イヤなのか・・・?ほんとに・・・?」
アスランの目が険悪な光を放った。
次の瞬間、イザークは、ああっと激しく喘いだ。
痛みが、襲う。
あまりの痛みに、再びどっと涙が溢れた。
アスランのものが激しくイザークの内奥を突いた。
乱暴な揺さぶり。
無理な突き上げに、再び内壁の膜が傷ついたらしく、鋭い痛みが走る。
「・・・あっ・・・アス・・ラ・・・ン・・・」
力なくその名を呟くイザークを無視するかのように、アスランは自らのものを彼の中に一気に吐き出した。
イザーク自身とアスランの白濁した体液・・・朱の混じった滴が太腿を伝い落ちていく。
イザークは・・・その瞬間・・・痛みと快感との相反する感覚の波の交差に、気が遠くなりそうになりながら・・・共に果てるその瞬間まで・・・
・・・ただ自分でもわけのわからぬ喘ぎを、ひっきりなしに上げ続けていた。
そして、そんな自分の声さえも、いつか遠くなり・・・。
――あとに残ったものは・・・
全身をぎりぎりと苛むような、この痛み。
ひととき感じたと思ったあの快感は、既に消えていた。
そこにはただ、癒されようもない・・・
心の奥深くまで、強く穿たれたかのような・・・痛みだけが残っていた。
(Fin)
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