もういちど、きみを・・・ (7) シャワーを浴び、着替えを済ませてまともな格好になると、ようやくイザークの思考も正常に戻ったようだった。 (一体、ここはどこなんだろう……?) 彼は窓辺に寄ると、窓を開け、外の様子を見ようと首を出した。 途端に、吹き込んできた強い風に混じる潮のきつい香りが鼻をつき、彼は思わず息を止めた。 同時に、目の前に広がるその真っ青な風景に、目を瞠る。子供のように、あっと声を上げそうになった。 地球で見たあの美しい海岸の風景とは比べ物にはならないが、それでも―― 『海』であることには変わりなかった。 (ここは……) あのホテルの位置から考えて、頭の中で素早く現在地を検索する。 プラントのリゾート地の一つだろうが、季節外れの今は閑散として人の気配もない。 最短距離で考えても…… (……かなり、市街地から離れてるぞ。こんな遠いところまで、連れてきやがって……あんの野郎……!) 忌々しげに胸の内でそう吐き捨てながらも、一方で目の前の風景になぜか心魅かれてしまう。 それは、この青のせいだ。この、どこまでも広がる真っ青な海の色。 イザークはもう一度ゆっくりと潮風を吸い込むと、魅せられたように、目の前に広がる青い光景に瞳を注いだ。 波の寄せる音。 海鳥の微かな鳴き声。 (――イザークの瞳の中に……) ふと、遠い昔に聞いた覚えのある母の言葉(フレーズ)が甦ってきた。 (――イザークの瞳(め)の中に、空と海が見える) 誇らしげに覗きこんでくる母の瞳を見て、イザークは不思議そうに首を傾げた。 ――どういうことだろう? 自分が青い目だから?空と海の青い色と同じだって……そういうことなんだろうか? でも、それじゃあ……母上だって同じだ。 いつも憧れていた、この……母上のきりっとした、強い光を瞬かせる美しい青い瞳。 (……母上の瞳だって、同じじゃないですか) そう言うと、母はにっこり笑い、そしてなぜか少し寂しげに首を振った。 (……だったら、良いのだけれど) その言葉の意味が彼には長い間、わからなかった。 この戦争が停戦に至ったあの日、母が最後に見せた涙……それを見て、はっと胸を衝かれたあの瞬間までは。 「どうした?ぼーっとして……」 不意に背後から声がかかった。 「そんなに、海が珍しい?」 振り向こうとする前に、背後から抱き締められ、身動きができなくなった。 「そんなんじゃ……ない」 文句を言う気も失せて、イザークは力なく呟いた。 相手の腕の中に心地よくしなだれている自分の体の素直な反応が恨めしいとすら感じられる。 それでもなぜか今は……抗う気持ちになれない。 それは、目の前のこの青い風景のせいだろうか。 息を吐き、一瞬目を閉じたイザークの瞼の上を、アスランの指先がそっと撫でていった。 「……イザークの瞳(め)と、おんなじ色だ……」 その言葉が洩れたとき、イザークはどきりとした。 (……同じだ……) 母上が言った言葉と……。 その偶然の一致がイザークには不思議に感じられた。 それは……何だか妙に切なくなる瞬間で……。 そんなことを思っているうちに、ふと気付くと、いつのまにかアスランの唇が耳元をくすぐっていた。それが次第に愛撫を強め始めたとき、 「――やめろ!」 今度は、イザークの本能が反射的にアスランの動きを拒んだ。 「……シャワー浴びたとこなんだぞ!」 アスランは唇を離すと、くすりと笑った。 「わかってるよ。ソープのいい香りがしてる」 彼はあっさりとイザークを解放した。 「……そんなに怒るなよ。ちょっと遊んでみただけだから」 睨みつけるイザークをからかうように一瞥すると、彼はさっさと踵を返して隣室へ向かった。 「来いよ。一緒に食事、しよう」 こざっぱりとした食卓に並んだ簡単な朝食。 部屋の状況や豪華さは違っていても、まるで時間が1日元に戻ったかのような錯覚に陥りそうになる。ホテルでの、意識が混濁したあの瞬間。 「……まさか、また妙なもの、入れてないだろうな」 食卓についた瞬間、イザークの口から出た言葉に、アスランは肩をすくめた。 「疑い深いなあ。安心しろよ。二度も同じ手は使わないよ」 イザークは溜め息を吐いた。 どこまで信じられるかわかったものじゃない。 そう思いはしても、口には出さなかった。 ただ、ここまでくれば、もう何度騙されても同じだという気もしていた。 彼はパンを手に取るとさっさと口に入れ始めた。パンはまだ暖かかく、つけたバターがとろりと溶けて、香ばしく美味しかった。 (全く細かいところにまで気を配る奴め) 相変わらず……そう思うと、イザークはふっと目を和らげた。 ――そうだ。こいつには、こんなところもあったっけ。 何だか妙に懐かしさが胸に満ちた。 「……おい、何だよ。じろじろ見るな、バカ!」 ふと向かい側に座っているアスランの視線を感じて、急に落ち着かなくなった。そんな自分の心を無理に抑え込もうとするため、自然に声が刺々しくなる。 しかしアスランは怒りもせず、満足げに微笑み返しただけだった。 「いや、おいしそうに食べてるから、良かった……と思って」 (昨夜、ひどいことしたから、怒ってるだろうと思ったけど……) アスランは心の内でひそかに続けた。 ――あれは……やっぱり、強姦(レイプ)に近かったもんな。 行為が終わった瞬間後悔したが、もはや取り返しがつかなかった。 ――イザーク……俺……おまえに、また…… 自分のしたことを見て、全身が慄く思いだった。 ごめん。ごめん。ごめん…… いくら謝っても、仕方がない。そう思うとやるせなくて……。でも、だからといって、イザークを手放す気にもなれなくて。 そんなひどい一夜を明かして……アスランはひそかに恐れていた。 朝、目覚めたとき、イザークがどんな目で自分を見るかということに。 あの美しい透明なアイス・ブルーの瞳に映る侮蔑と嫌悪の翳を見ることを、彼は心底恐れた。 しかし…… 彼の瞳は静かだった。 恐ろしいくらいに……何も映してはいなかった。 怒りも、蔑みも……。 ただ……僅かな涙の跡が、アスランの胸を軽く刺した。 そして、それが却ってアスランの心を動揺させた。 (イザーク……おまえは、本当にこんな俺をまだ受け容れてくれるのだろうか……) アスランは不安な気持ちを隠しながら、それでもじっとイザークから目を離せずにいた。 「腹が空いてたら、何でも美味いだろう」 イザークは仏頂面で言うと、パンの最後の欠片を飲み込んだ。 「……それより、貴様がこんなにロマンティストだとは思わなかったな」 その言葉にアスランが訝しげに首を傾げる。 「海の見える場所で、愛を語らおうとでもいうつもりだったか?……ったく、少女趣味もいいところだな」 皮肉交じりに言うイザークに、アスランは苦笑した。 「いや、そんなつもりじゃなかったけど。他に、行く場所を思いつかなかったから」 ふとアスランの瞳が遠くなる。 「……ただ、あのホテルから近いところでよく知っているところっていえば、ここくらいしかなかったから……。昔……家族で来たことがあるんだ……」 遠い昔。あれはいつのことだったろうか。プラントにいる父を訪ねて、母と何度かこのロッジに泊まった。 まだ、頭の中に戦争という文字すらなく、何も知らずにただ幸せに包まれていただけのあの頃。家族と過ごした僅かな思い出の残る場所。あそこは今、どうなっているだろうか。まだあの頃のまま、変わらず残っているのだろうか。 ――そう思ったら、自然に足がこちらに向いていた。 「……そうか」 イザークはアスランをじっと見返した。 その透明な青が、アスランの胸に染み入るようだった。 (こいつの瞳(め)は、どうしてこんな色をしている……?) この瞳の色が、自分を魅惑する。 この空と海のブルーが……。 染み入るような、汚れのない、透明な青……。 こんなに真っ直ぐで美しい瞳の色を、他に見たことがない……。本当に、こんなに綺麗な瞳を……。 「……アスラン」 一瞬ぼんやりとしていたアスランの耳に、突然イザークの声が鋭く響いた。 「これを食べ終わったら……俺は、ホテルへ戻る」 アスランははっと目を見開いた。 急に、現実が目の前に迫ってきたような気がした。 避けられない、現実。 いつかはくるべき別れのとき。しかし、今、こんなときに……。 「……俺たちも前線に戻らなきゃならないからな。いつまでもこうしてはいられない」 淡々と続けるイザークを、アスランは愕然とした表情で見つめていた。 「……ディアッカに迎えにきてもらうのも大げさだから、俺は一人で帰る。だから――」 「――まっ、待てよ!」 がたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がったアスランを見て、イザークは驚いたように目を瞠った。 「勝手に決めるな!そんな……そんなこと、急に……!」 アスランの声の大きさに、イザークも思わず立ち上がった。 こうした相手の反応を予想しないわけではなかったが、それでも実際にそれを目の前にすると、イザーク自身も激しく動揺せずにはおれなかった。 全身がかっと熱く燃え立つようだった。自分も辛いのだ。辛いが、仕方のないことではないか。いつまでも、こうしているわけにはいかないのだ。 いつかは……その時は、くる。そんなことはわかっている筈なのに……いつまで知らない振りをする?いつまで、時を止めておけばいい……? ずっと、永遠に……? 未来へ目を向けることもなく…… ――アスラン……! 不意に込み上げてきた怒りがイザークの全身を強く揺さぶった。彼は拳を強く握り締め、相手を睨みつけた。 「……勝手なのは、どっちだ!元々おまえが勝手に俺をこんなところまで連れてきたからだろう!あのまま、ホテルで一緒に過ごして……一夜で済むところだったのに、おまえがこんなことをするから……俺だって……俺だって……くそッ……!」 そこまで言ったときには既に興奮して、声が震えていた。 (おまえの、せいで……) 俺自身の気持ちが揺らぐ。俺の心に迷いが生じる。 どうしても……こんな風に一緒にいる時間が長くなればなるほど…… 「……だから、こんなに離れられなくなる……!」 おまえのいない間に、ようやく見つけた俺の居場所が、また…… ――崩れる。 俺は、また戻れなくなる。どこへも戻れなくなってしまう……。 俺もおまえが好きだ。 おまえとずっと一緒にいたい。 この気持ちはどうしても拭えない。仕方がない。おまえの代わりはどこにもいないのだから。俺はずっと、おまえのことを……恐らくずっとこの気持ちは……。 けど…… 「俺は、おまえの所有物(もの)じゃない……」 おまえは、俺を縛ることはできない。こんな風に俺の自由を奪うことはできない。心も、体も……。 そんなのは、対等(フェア)な関係じゃない。 だから、今おまえとこんな風にいることは、正しくない。 「イザーク……!」 アスランがゆっくりとテーブルを回って近づいてくる。 「来るな!」 イザークはそんな彼を避けるように、じりじりと後退った。足元が覚束ない。思わずよろめきそうになる。 近づいてくる相手を拒もうとしながらも、心の奥深くでは強く求めている自分が怖い。 「俺はおまえを自分の『所有物(もの)』だなんて思ったことは……」 「あるさ!でなきゃ、こんなこと、しない!」 そう叫ぶと、イザークは逃げた。 逃げる彼を、追いかけたアスランの腕が捉えた。 二人は折り重なるように、床に倒れ込んだ。 「放せよ、アスラン……!」 「放すものか……!」 アスランは、必死だった。 ――そう……今、放せば、おまえはもう……。 そのとき、扉が開いた。 「イザーク!」 取っ組み合っていた二人の前に、驚いた顔のディアッカ・エルスマンが立っていた。 「……ディアッカ……?」 「アスラン、てめー!」 目を見開くイザークをよそに、ディアッカはあっという間に二人の間に割り入り、アスランからイザークを引き離した。 「どーいうことだ?説明しろ!」 激しく息を吐きながら、ディアッカはアスランを睨みつけた。 「ディアッカ……おまえ、どうしてここが……」 信じられぬような目で問いかけたイザークに、ディアッカはにやりと笑ってみせた。 「携帯!……発信元調べりゃわかるだろーが」 すっかり怒って切られたきりと思っていたが、それでも彼はやはり調べてここまで辿り着いてくれたのだ。イザークの気持ちを知ってか知らずか。それでも…… ディアッカにはやはり感謝しなければならないだろう。 自分のしていることから考えると見合わぬくらいのことを……彼は十分にしてくれている。 しかし……自分はそれに応えることができるのだろうか。その自信がない。 「ディアッカ。悪いが、今俺たちは……」 強い語調で口を挟んできたアスランを、ディアッカは激しく睨み返した。 「黙れよ、アスラン!てめーって奴は……一体何考えてる?イザークを自分だけのものにしようとでも思ったか?」 「――ああ、悪いか?」 アスランの迷いのないその切り返し方にディアッカはややひるんだ。 (何だよ、こいつ……開き直ってやがるのか?) 相手の真っ直ぐさが却って腹立たしさを募らせる。 そんな目で見るな。くそっ……! 「好きなんだ。一緒にいたいって思うのは、当然だろう?」 「あのなあ、だからって……」 言いたいことは山ほどある。こんな理不尽なこと、あってたまるかって。好きなら、何をしてもいいっていうのか。そんな馬鹿なこと、あってたまるか。それなら、俺だって……。 しかし、突然ディアッカはそれ以上言う気がしなくなった。 本当を言えば、自分もアスランと同じくらい馬鹿な思考は何度もしてきた。ただ、実行に移す勇気がなかっただけだ。 ディアッカはイザークを見た。 手の中で震えるこの頼りない存在。 ディアッカはどきりとした。 何だろう。いつも以上にイザークが脆く、儚い存在に見えるのは。 「……イザーク?……大丈夫――か?」 イザークを抱き締めるディアッカの腕に力が込もる。 その瞬間、これまで抑えてきた思いのたけが、どっと胸から溢れ出て……止まらなくなった。 このまま、捕まえていなければ、またどこかへ行ってしまう。……そんな微かな恐れと不安がディアッカを捉えた。 (あ……ッ……!) ディアッカの腕に抱かれながら、イザークは一瞬その中で酔いそうになっている自分を感じた。 少し離れていただけなのに、それがひどく懐かしく感じられるのは、なぜなのか。しかし……。 「よせ、ディアッカ!」 イザークははっと我に返ると、押しのけるように、ディアッカの腕の中から身を離した。 「……イザーク……?」 拒絶された……とわかったその瞬間、苦い憤りが胸いっぱいに広がり、もはや抑えられなくなった。 「何だよ、おまえ!まだ俺より、こいつと一緒にいたいっていうのか?」 ディアッカは再びイザークの両手を掴み上げた。その両手首のまだ赤味の残る擦り傷を本人の目の前に突きつけるように高く上げた。 思わず痛みに顔を歪めるイザークを見て、彼は皮肉な笑みを見せた。 「これは何だよ!こんなことされて……この傷見りゃーな、何されたか大体想像がつくさ!それでもおまえ、まだこんな奴のことが好きだっていうのか?おまえ、マゾかよ?いい加減、目え覚ませって!」 ――ディアッカ……やめろ……っ……! イザークは悲鳴を上げた。 (嫌だ、聞きたくない……!) ――おまえの口から、そんなひどいこと……! だが、どうしても声が出なかった。代わりに、ただ黙ったまま、彼は傷ついた表情でディアッカを見返すだけだった。 先にその視線に耐えられなくなったのは、ディアッカの方だった。 (……イザーク……) ――俺は……なんて…… 自分自身に対するひどい嫌悪感が渦巻いた。 「……ディアッカ……もう、やめろ」 ようやくイザークの喉から出た声は小さく、聞こえないほどだった。しかし、ディアッカの耳には、その痛々しい苦悶に満ちた一言がはっきりと伝わった。 「………………」 返す言葉も出てこないまま、ディアッカは目を逸らすと、イザークの手を離した。 そんなディアッカを苦しげに見つめながら、イザークはふらりと立ち上がった。 「イザーク……」 アスランの瞳が何かを激しく求めるようにイザークにぶつかった。 そんな二人を交互に見つめると、イザークは軽く目を閉じた。 「……おまえたちは、ひどい」 涙が、頬を伝う。 おまえたちは、俺を混乱させる。 俺は…… 俺は、こんなこと、望んじゃいない。 俺は…… どうすればいいのか、俺にはわからない。 わからなくなった。 「……俺には、わからない……」 もう、俺に構うな……構わないでくれ……! 茫然と立ちすくむ二人に背を向けると、イザークは身を翻した。 彼は、そのまま一気に駆けた。 部屋を出て、外へ―― 何が何だかわからぬまま、ただ本能に駆られるままに。 自分を苛む全てのものから逃れるように。 「イザーク……!」 遠く彼方でアスランが、そしてディアッカが、呼ぶ声も無視して、彼はただ狂ったように駆けた。 ロッジの裏を過ぎ、潮の匂いに引かれるように、小道を走り抜けると突然目の前に広がる、その鮮やかな青。 (イザークの瞳の中に、海が……) 人工とは思えない、まさしく地球の青を連想させる、その目の覚めるような美しい青の広がり。 たとえまがい物であったとしても、構わない。 あまりに美しい色の中に引き込まれるように、彼は立ち止まり、ただ恍惚とした表情で一瞬その青に見惚れた。 「イザーク!」 再び、声が聞こえた。 今度は背のすぐ近くではっきりと。 イザークは振り返った。 「イザーク!戻れ。そこは危ない」 ディアッカが不安げにこちらを見つめていた。 「イザーク……!」 アスランがそのすぐ後ろから姿を見せると、やはりイザークに向かって呼びかける。 泣きそうな表情に、イザークは不思議そうに首を傾げた。 (どうしたんだ、アスラン……?) こんなに綺麗な海が見えるのに、おまえ、何でそんな顔してる……? おまえの思い出の場所なんだろう。 おまえの好きな場所だって言ったじゃないか。変な奴だな、おまえ……。 イザークは微笑んだ。陽の光を反射して、銀色の髪が眩くきらめいた。 「……アスラン……ディアッカ……」 イザークの唇が静かに動くと、潮風がその名をそっと運んだ。 「俺は、おまえたちが……」 おまえたちが……どちらも…… ――好き……だ…… どうして、選ぶことができる? そんなこと、できるはずもない。 その瞬間、イザークにはそんな自分の気持ちがはっきりわかったような気がした。 イザークは眩しげに目を細めた。 透明なブルーの瞳が、優しく二人を見つめる。 ――俺の気持ち……わかるよな。 そう思った瞬間……彼の足元は不意に崩れた。 ぐらりと揺らめきながら景色が回転し、いつしか真っ青な空を仰いでいた…… きらめく光の眩しさに思わず目を閉じたイザークの耳元を吹き過ぎていく風の唸り。落ちていく感覚。 「イザーク――!」 悲鳴に近い叫びとともに、差し出された手はただ虚しく空を掴む。 そして…… イザークの体はきらめく青い光の渦の中へと真っ直ぐに、音もなく落下していった。 (To be continued...) |